東京地方裁判所 昭和62年(ワ)5558号 判決 1994年10月18日
原告
相澤敏雄
外二四四名
原告ら訴訟代理人弁護士
北沢義博
同
白井典子
同
小島延夫
同
上柳敏郎
同
田中由美子
同
玉木一成
同
須野瀬学
同
横塚章
同
田岡浩之
同
清水聡
同
山口浩
同
樋渡俊一
同
根岸清一
同
金沢均
同
行木武利
同
嶋田雅弘
同
三木俊博
同
櫛田寛一
同
田村博志
同
小寺史郎
同
千葉肇
同
山崎泉
同
羽倉佐知子
同
藤川元
右北沢訴訟復代理人弁護士
久米川良子
同
橋本頼裕
同
池田直樹
同
和田誠一郎
同
池原毅和
同
福島瑞穂
同
大森秀和
右櫛田訴訟復代理人弁護士
泉薫
被告
石原こと
李忠博
右訴訟代理人弁護士
伊藤卓藏
同
小清水義治
主文
一 被告は、原告らに対し、それぞれ別紙請求債権目録の原告らに対応する請求金額欄記載の各金員及びこれに対する昭和六一年一一月二七日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 被告は、金の現物まがい商法で有名な訴外豊田商事(以下「豊田商事」という)の元従業員であるが、訴外レブコジャパン株式会社(昭和六一年一二月四日破産。以下「レブコ」という。)の代表取締役として、訴外株式会社丸和モーゲージ(以下「丸和モーゲージ」という。同年二月二六日破産。その旧商号はナショナル抵当証券株式会社であり、以下「ナショナル抵当証券」という。)の設立及び運営の中心となった者である。
(二) 原告らは、ナショナル抵当証券又は丸和モーゲージから別紙請求債権目録の購入金額欄記載のとおりの各金額の後記モーゲージ証書を購入した者である。
2 ナショナル抵当証券の設立とその背景
(一) ナショナル抵当証券は、訴外株式会社日本相互リース(旧商号三和信託株式会社。昭和六〇年一〇月一六日破産。以下「三和信託」という。)及びレブコと強い結びつきを有していた。
(二) 三和信託は、昭和五八年六月二三日、豊田商事の元従業員で、被告の同僚であった前田進(以下「前田」という)らが営業を開始した会社であって、その手口は、金地金の裏付けがないのに種々の勧誘により金地金購入代金名下に金員を受け取り、金地金現物の代わりに証書を交付するという豊田商事と同様の商法であった。
(三) レブコは三和信託と一心同体をなす会社であり、三和信託が金現物まがい商法により顧客から集めた金員を実際に金地金購入に充てているように偽装して、三和信託の詐欺的性格を隠蔽するために作られた会社である。レブコと三和信託の間には純金売買取引の基本契約が締結され、三和信託の集金した金員は金地金の購入代金名下にレブコに送金されていたが、レブコは右金員を金地金の購入には充てず、金の先物取引や不動産投機等に流用し、健全な資金運用をしていなかった。
(四) 昭和六〇年五月ころ、従来からその商法の違法性を追及されてきた豊田商事が破綻し、三和信託も連鎖的に破綻した。そのため、レブコの代表取締役として、岡山県所在の合計一一筆の土地(以下「本件土地」という)の開発を計画し、三〇億円を超える多額の資金を必要としていた被告は資金繰りに窮した。
そこで、被告は、分離前被告不動産抵当証券株式会社の代表取締役である分離前被告鈴木俊彬(以下「鈴木」という)らから、当時「財テク商品」として注目されていた抵当証券を発行して資金を集める方法を教わり、実弟である分離前被告石原こと李昌雨(以下「昌雨」という)、知人の分離前被告楠原大輔(以下「楠原」という)らと共謀のうえ、本件土地を担保とする抵当証券を利用して一般消費者から金員を詐取すべく、レブコの資金調達機関としてナショナル抵当証券を同年六月二四日設立した。
3 ナショナル抵当証券の概要
(一) 資本構成
被告は、ナショナル抵当証券の設立に際し、資本金二〇〇〇万円を出資し、昭和六〇年八月一五日の増資時には、レブコが追加資本金六〇〇〇万円を出資した。
レブコは設立時にはナショナル抵当証券の株主となっていないが、右増資時には発行済み株式総数一六〇〇株のうち一〇二〇株を、昭和六一年一一月二六日の破産宣告時には一二〇〇株を保有していた。
(二) 役員構成
ナショナル抵当証券の取締役及び監査役は、すべて被告の周辺知人であり、被告は、ナショナル抵当証券設立時には楠原を代表取締役とし、昌雨を専務取締役として業務全般を統括させた。昌雨は昭和六一年二月二八日付けで取締役を辞任したが、辞任後も実質的にナショナル抵当証券の業務全般を統括した。
被告はナショナル抵当証券の役員とはならなかったが、昌雨らを通じてナショナル抵当証券を支配し、悪徳抵当証券商法を推進させた。資本構成、役員構成からみる限り、ナショナル抵当証券とレブコは一体の関係にあった。
(三) 従業員構成
ナショナル抵当証券の従業員の大部分は、三和信託やレブコに在籍した経験を持つ者であった。
4 ナショナル抵当証券の営業
(一) 営業内容の特色
(1) ナショナル抵当証券は設立後直ちに抵当証券の一般販売を開始したが、その販売契約においては、①販売対象は二年もの、三年もの、五年ものの抵当証券、②利息は年7.0ないし7.5パーセント(年二回払い)、③販売額は一〇〇万円から五〇万円単位、④ナショナル抵当証券が元本保証、⑤購入者は解約手数料を支払って中途解約できる、⑥購入者には抵当証券の原券を引き渡さず、売上証兼預かり証であるモーゲージ証書(以下「モーゲージ証書」という)のみを交付する、とされていた。
(2) ナショナル抵当証券は、訴外松下電器産業系や訴外ナショナル証券株式会社系と紛らわしい商号を用い、①元金保証、②高利回りの確定利率、③税制面で有利、④中途換金自由等と謳い、「法務局発行」「会社の保証つき」等の文句を用いた新聞折込みの宣伝ビラ、車内広告等で安全有利を強調して購入者を募り、モーゲージ証書を販売した。
そして、ナショナル抵当証券は、後記のように、本件土地の水増し鑑定評価をさせ、さらに原告ら一般消費者からモーゲージ証書購入代金名下に総額三〇億円余を集め、抵当証券発行後に右金員をもってレブコへの融資を実行するという詐欺的手法を行っていた。
(二) ナショナル抵当証券の破綻に至る経緯
(1) 協会加入劇
昭和六一年初めころ、抵当証券業懇話会又は社団法人日本抵当証券協会(以下「日本抵当証券協会」という)に加入していない抵当証券会社は危険であるとの風評が高まり、顧客に動揺がみられた。そこで、ナショナル抵当証券は、日本抵当証券協会に加入すべく、同協会に顔がきくという触れ込みの分離前被告菊池透(以下「菊池」という)らに同協会加入を請け負わせ、同年二月二八日昌雨らが取締役を辞任し、菊池らが取締役に就任して加入運動を行った。しかし、ナショナル抵当証券は、日本抵当証券協会に加入することはできなかった。
それにもかかわらず、ナショナル抵当証券は、同年四月、モーゲージ証書購入者宛に、ナショナル抵当証券が日本抵当証券協会に加入した旨の虚偽の通知を送付したところ、購入者等が抗議したため、同協会未加入の事実を認めざるを得なくなり、顧客はますます動揺して解約が増加する結果となった。
(2) 全国不動産抵当証券協会の設立
ナショナル抵当証券は、昭和六一年一〇月ころ、全国不動産抵当証券協会を組織し加入した。しかし、この団体は、ナショナル抵当証券以外に、実質的にナショナル抵当証券の甲府支店でしかない大成モーゲージが加盟しているのみであり、実際はナショナル抵当証券の苦情受付機関でしかなかった。
(3) ナショナル抵当証券は、マスコミから「危ない会社『N抵当証券』」と指摘されたことから、昭和六一年一〇月一日、急遽商号を株式会社丸和モーゲージに変更した。
(4) 丸和モーゲージは、昭和六一年四月以降モーゲージ証書の解約金額が購入金額を上回り、その後も解約が殺到したため、同年一〇月二〇日支払い不能に陥り、同年一一月二六日総額一七億円以上の負債を抱えて破産した。
5 ナショナル抵当証券(丸和モーゲージ)の営業の違法性
(一)破綻の必然性
本来の抵当証券業務では、抵当証券業者は、長期金融を求める者に対し金を貸し付けて抵当証券の原券の交付を受けたうえ、原券を自らもしくは銀行等に保管しておき、原券に代わるモーゲージ証書を発行し、右の長期金融より低い利息を付けて多数の購入者に買わせて利ざやを利益とする。このように長期資金の貸付先からの利息が抵当証券業者の唯一の営業収入であり、抵当証券業者はここからモーゲージ証書購入者に対する利息の支払いを行い、営業経費や人件費その他一般管理費を支出する。
また、通常は長期金融の貸付先の返済期限が一〇年ないし二〇年と長期なのに対し、モーゲージ証書購入者には途中解約権が容認されているので、抵当証券業者としては、これらを考慮した資金計画の樹立が必要である。特に一時的に手元資金が枯渇した場合に運転資金を確保するための信用力の有無が、この業種にあっては健全経営体か否かの決定的な指標となる。
本件の場合、ナショナル抵当証券が抵当証券商法によって顧客から取得した金員はすべてレブコに貸付けられたが、利息や手数料につきレブコから現実の入金はなく、貸付元本の弁済期も一〇年後となっており、モーゲージ証書販売代金がナショナル抵当証券の唯一の収入であった。また、ナショナル抵当証券の関係者は何ら資金計画を持たず、モーゲージ証書販売代金を無計画に宣伝費や人件費等の経費、モーゲージ証書購入者に対する利息や中途解約金の支払に充てていた。したがって、モーゲージ証書購入者が減少し中途解約者が増加すれば即座に中途解約金の支払いが困難になる状態にあった。また、ナショナル抵当証券の金融機関に対する信用は皆無であり、銀行等からの融資は期待できない状況にあった。そのため、ナショナル抵当証券がいずれ破綻し、購入者への償還が不可能となることは当初から予測できた。
(二) 抵当証券についての疑惑
抵当証券販売業は、一般消費者に販売されるモーゲージ証書が健全な抵当証券に裏付けられていることによって安全性、確実性が担保される。ところが、本件では、抵当証券自体に後融資や水増し鑑定といった多くの問題点があった。
(1) 後融資の形での抵当証券発行
本件土地について作成販売された抵当証券は、その発行時にはレブコに対する融資がなされておらず、その後にモーゲージ証書の販売により一般大衆から集めた金員をもってレブコへの融資がなされた。有効な抵当証券が一般消費者の購入以前には存在していなかったものであり、一般消費者を欺瞞すること甚だしい。
(2) 水増し鑑定評価
抵当証券の発行を申請する場合、抵当権者は法務局に対し、不動産鑑定士作成にかかる目的不動産の鑑定評価書を提出しなければならず、法務局が抵当証券を発行する際に実地見分などを行っていない現在の実務上、この鑑定評価は抵当証券の安全性の唯一の拠り所である。
本件の場合、被告は、鈴木及び不動産鑑定士である分離前被告野納芳昭(以下「野納」という)と共謀のうえ、野納をして本件土地を合計三五億九五六九万円(坪二一万八六一五円)と鑑定評価させ、それを前提に総額二八億七〇〇〇万円にのぼる抵当証券計七通を順次発行させた。野納は、児島湾大橋の完成で開発が期待されるとともに、将来的には観光・レジャー開発や業務住宅用地等児島半島の宅地開発に拍車がかかっていくことを根拠に、右の不動産鑑定をしているが、右のごとき不確定な事実を抵当証券発行のための鑑定資料とする鑑定手法は許されない。そもそも、本件土地は、レブコが昭和六〇年八月三一日から昭和六一年四月にかけて約一〇億円(坪六万五〇〇〇円)で購入した土地であるうえ、埋立の際の造成が不十分で地盤沈下が起こる等不良地盤として問題となったところであり、現在は地盤沈下の原状回復措置として廃棄物の埋立が行われている土地であるから、観光・レジャー開発施設に適さず、また、本件土地の中には未買収の土地があって利用上のネックとなっている等の事情もあり、以上の諸事実からすると、野納の行った本件土地に関する右鑑定評価額は明らかに不当なものというべきである。
(三)消費者を欺く商法
以上のように、ナショナル抵当証券の商法は、正常な抵当証券販売業とは似て非なるものであり、いずれ行き詰まることは明らかであった。被告は、右事実をモーゲージ証書購入者に隠蔽するために、前記のごとく、「ナショナル」という紛らわしい名称を用い、大々的な宣伝を行い、日本抵当証券協会に加入したかのように装い、それに失敗すると全国不動産抵当証券協会をでっちあげる等の方法を用いた。
6 被告の責任
ナショナル抵当証券からモーゲージ証書購入者への償還が不可能となることは、設立当初から明白であり、顧客に抵当証券の購入を勧誘し金員を出捐させることはそれ自体不法行為である。被告は、そのことを熟知し、もしくは知りうべき立場にありながら、このような違法行為を組織的に行うべくナショナル抵当証券を設立し運営の中心となった。
被告はレブコの代表取締役社長の地位にあって、三和信託の破産によってレブコの資金調達手段が途絶えると、新たな悪徳商法として抵当証券を利用することを考えてナショナル抵当証券を設立し、巧妙にも同社の役員にはならなかったものの、昌雨を通じて同社をコントロールし、悪徳抵当証券商法を推進させた。
したがって、被告は、原告らの損害につき民法七〇九条により不法行為責任を負う。
7 損害
(一) 原告らは、被告が形成した詐欺的組織体であるナショナル抵当証券又は丸和モーゲージから、別紙請求債権目録の購入金額欄記載のとおりの金員を支払い、各モーゲージ証書を購入させられた。しかし、丸和モーゲージは破産し、原告らは、丸和モーゲージ破産管財人に対し右購入にかかる債権を破産債権として届け出た結果、平成六年五月までに債権額のうち合計78.5パーセントの配当を受けたものの、その余の債権の回収の目処は立っておらず、別紙請求債権目録の損害額欄記載のとおりの損害を蒙った。
(二) 原告らは、被告から容易に右損害額の支払いを受けられないので、原告ら代理人弁護士に本件損害賠償請求訴訟の追行を委任し、それぞれ請求金額の一割の弁護士費用を支払うことを約した。その金額は、別紙請求債権目録の弁護士費用欄記載のとおりである。
本件のような極めて巧妙かつ大規模な不法行為に対する損害賠償請求訴訟においては弁護士への訴訟委任は不可欠であり、その弁護士費用は被告の負担とするのが相当である。
8 よって、原告らは、被告に対し、それぞれ、不法行為に基づく損害賠償として別紙請求債権目録の請求金額欄記載の各金員及びこれに対する不法行為の日以降であることが明らかな丸和モーゲージ破産の翌日である昭和六一年一一月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)の事実は認める。
同(二)の事実は不知。
2 同2(一)、(三)の事実は否認する。
同2(二)の事実は不知。
同2(四)の事実のうち、被告がナショナル抵当証券を設立したことは認め、その余は否認する。
3 同3(一)(三)の事実は認める。
同3(二)の事実のうち、形式的な役員構成は認めるが、その余はすべて否認する。
4 同4(一)(1)の事実は認める。
同4(一)(2)の事実のうち、ナショナル抵当証券が新聞折り込み広告で購入者を募り、モーゲージ証書を販売したことを認め、その余は否認する。
同4(二)の事実のうち、昭和六一年二月二八日昌雨らが取締役を辞任し、菊池らが取締役に就任したこと、ナショナル抵当証券が同年四月モーゲージ証書購入者宛に日本抵当証券協会に加入した旨の通知を送付したこと、ナショナル抵当証券が同年一〇月一日に商号を丸和モーゲージに変更したこと、丸和モーゲージが同年一一月二六日破産したことは認め、その余は否認する。日本抵当証券協会に加入した旨の通知は菊池に騙され、同協会に加入できると信じたため送付したものである。
5 同5の事実中、形式上後融資であったこと、野納が原告主張の額の鑑定評価をし、丸和モーゲージが原告主張の額の抵当証券を発行したこと、レブコが原告主張の額で本件土地を取得したことは認めるが、その余はすべて否認する。
6 同6の事実は否認する。
7 同7は不知ないし争う。
(被告の主張)
1 ナショナル抵当証券設立に至る経緯
被告は、かつて豊田商事に勤務していたが、その商法が破綻することを予知し、豊田商事の幹部に対し再三にわたって営業方針の改善を進言したが容れられなかったため、自己と意見を同じくする前田らとともに昭和五七年一一月豊田商事を退職した。
その後、前田が「豊田商事を反面教師として合法的で健全な仕事をしたいので協力してほしい。」と持ちかけてきたことから、三和信託とレブコを設立し、前田が三和信託の、被告がレブコの責任者となって、それぞれ独立して事業の運営にあたることとなった。
被告及び前田は、豊田商事の商法を根本的に改善して合法的かつ合理的なものとし、①現実に金地金を買いつける、②経費をなるべく節約し、不必要な店舗は作らない、③お客本位を旨として解約にも応じる、④まじめなよい商法であると世間から認められるように努力することを両社の基本方針とした。そして、昭和五八年九月一三日、両社間で現物条件付純金売買取引約定契約を締結した。
被告は、三和信託が顧客と締結する契約の具体的かつ詳細な内容は三和信託側にすべて任せ、これに関与していなかったが、三和信託が右基本方針に基づき運営しているものと信じていた。また、被告は、三和信託の従業員がどのような方法で客を勧誘していたかについて全く関知していなかった。
レブコは、金地金を調達するため現物取引のほかに先物取引も行った。これは三和信託側の意向として先物取引の方法を許容していたこと及び先物取引では当初は保証金だけの支払で済み、残りの資金はレブコ側で有効に運用できることによる。本件土地を取得したのも右の経緯によるものである。
本件土地は、その地盤沈下が既に収まっており、すぐ隣に分譲住宅や自動車試験場があり、瀬戸大橋が開通する予定であるうえ、公道に面していることから、造成さえ行えば工場のみならず、住宅、パチンコ店、ドライブイン、ラブホテル等の敷地として活用されうる有価値な土地であった。
ところが、東京都及び警察当局は、豊田商事の経営の破綻が表面化したことから、これとは基本的に異なる被告及び前田の商法も豊田商事と同一のものであると誤解し、営業を中止するよう強く求めた。被告及び前田としては、営業を継続できれば顧客に損害を与えることは絶対にないと確信していたので、関係当局に対し豊田商事との違いを説明し、営業の継続許容を要請したが、聞き入れられず、また、マスコミも豊田商事と同一視した誤った報道を繰り返したため、被告及び前田は窮地に追い込まれた。しかし、被告は何としてでも生き残り、本件土地を有効に活用することによって自分達の商法の正しさを知らしめようと考え、その方法を模索した。
そうした状況下で、被告は知人の紹介で鈴木と知り合い、同人から抵当証券商法を教授された。鈴木は本件土地を視察し調査したうえ、「三〇億円は無理だが、二七、八億円の抵当証券の発行が可能だ。」と断言した。そこで、被告は鈴木の指図に従いナショナル抵当証券を設立したが、自らはナショナル抵当証券がレブコと一体視される誤解を避けるため役員にならなかった。
2 野納作成の不動産鑑定書作成との関わり
抵当証券発行の手続は専ら鈴木の側で進められた。被告は鈴木を全面的に信用し、手続をすべて任せた。また、本件土地の鑑定依頼についても鈴木が行ったことであり、被告は一切関与していない。被告は野納に会ったことも連絡を取ったこともなく、まして鑑定内容に容喙したことはない。被告は野納の鑑定内容に何ら疑念を抱かず、本件土地は造成工事さえ行えば二八億円の価値があるものと確信していた。
3 後融資について
被告は、抵当証券の発行が融資に先行しても土地に価値があるので問題とならないと鈴木に教えられ、そのとおり信じていた。まず抵当権を設定し、次に融資の実行をすることは世上よくある例である。
4 ナショナル抵当証券の破産に至る経緯について
ナショナル抵当証券は、昭和六一年の春までにほとんど全部の抵当証券の販売を終了したが、マスコミが他社のことで「抵当証券につき空売りや、二重売りが行われている。」と騒ぎ出したことから、ナショナル抵当証券にも一〇億円近い解約が出てしまった。いわれなきマスコミ攻勢であったが、この解約には誠意をもって応じ、中途解約金を支払った。しかし、その後も続くマスコミ攻勢によりその後の抵当証券販売が思わしくなく、昭和六一年一〇月にナショナル抵当証券は破局を来してしまった。
5 以上のとおり、被告はまじめな合法的商法を遂行していたものであり、詐欺呼ばわりされるのはとんでもない言いがかりである。
第三 証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1(一)の事実は当事者間に争いがなく、同(二)の事実は、原本の存在とその成立に争いのない甲第六八、第六九号証によりこれを認めることができる。
二 請求原因2(四)のうち被告がナショナル抵当証券を設立したこと、同3(一)(三)の事実及び同(二)のうち形式的な役員構成が原告ら主張のとおりであること、同4(一)(1)の事実及び同(2)のうちナショナル抵当証券が新聞折り込み広告で購入者を募り、モーゲージ証書を販売したこと、同4(二)のうち昭和六一年二月二八日昌雨らが取締役を辞任し、菊池らが取締役に就任したこと、ナショナル抵当証券が同年四月モーゲージ証書購入者宛に日本抵当証券協会に加入した旨の通知を送付したこと、ナショナル抵当証券が同年一〇月一日に商号を丸和モーゲージに変更したこと、丸和モーゲージが同年一一月二六日破産したこと、同5のうちレブコに対する融資が形式上後融資であったこと、野納が原告主張の額の鑑定評価をし、丸和モーゲージが原告主張の額の抵当証券を発行したこと、レブコが原告主張の額で本件土地を取得したことは、いずれも当事者間に争いがない。
以上の争いのない事実に、成立に争いのない甲第一ないし三号証、第五ないし一八号証、第二一号証、第二四ないし三一号証、第三七号証の一ないし五、第三八号証の一ないし三、第四一号証、第四二号証の一、二、第四三号証の一ないし五、第四六ないし五一号証、第五二号証の一ないし一一、原本の存在とその成立に争いのない同第四、第三四号証、第四四号証の一ないし五、第四五号証の一ないし一一、第五五ないし五九号証、第六〇号証の一、二、第七〇ないし七四号証、弁論の全趣旨により成立の真正が認められる同第一九、第五三号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき第三二号証、並びに分離前被告山下彰、同楠原大輔、分離前被告不動産抵当証券株式会社代表者兼分離前被告鈴木俊彬及び被告の各本人尋問の結果を総合すれば、請求原因2ないし5のその余の事実に加え、被告が昭和六〇年九月一八日から昭和六一年三月一三日にかけて合計五回にわたり同社とレブコ間に金銭消費貸借契約及び抵当証券発行特約付き抵当権設定契約を成立させたことを認めることができる。
右の点に関し、被告は、ナショナル抵当証券を豊田商事とは異なり合法的かつ合理的な商法を目的として設立したものである旨主張し、被告本人尋問の結果中には右主張に沿う供述部分もあるが、右は前認定の事実経過に照らし信用することができない。
また、被告は、本件土地に関する野納による鑑定評価には全く関与していない旨主張するが、被告本人尋問の結果によっても、被告は、レブコが約一〇億円で取得した本件土地上にパチンコ店やホテル等を建設する同土地の開発計画を立て、そのための資金として少なくとも四〇億円ほどの費用がかかるので、同土地の評価を三〇億円程度に見積もったうえで、右金額に見合う抵当証券の発行による資金調達方法を企図し、鈴木に対し、本件土地を三〇億円程度に評価してもらうよう申し入れをしたところ、これに対し、鈴木は三〇億円は無理だがそれに近い数字は出せると思う旨述べたことが認められるのであって、その後鈴木の指示により本件土地を鑑定評価した野納により原告主張の評価結果が出されたことは前認定のとおりであるから、右鑑定に全く関与していない旨の被告の右主張は採用することができない。
次に、前記甲第五七、第五八号証、被告及び分離前被告楠原の各本人尋問の結果中には、レブコによる本件土地の買収開発が完成すれば丸和モーゲージ(ナショナル抵当証券)は破綻しなかったとする供述・記載部分があるが、右各証拠によっても、本件土地の買収開発に十分な成算があったとは認められず、右供述・記載部分は結局本件土地の買収開発の成功という不確実な事実を前提として希望的観測を述べるにすぎないし、また、右甲第五七号証中には、ナショナル抵当証券は無計画な事業体ではなかったとする記載部分があるが、右弁解は監査役である山下彰において何らかの計画があったとの推測に尽きるところ、前記甲第五五、第五六号証によれば、同人においてもナショナル抵当証券の経営について確たる見通しを持っていなかったことが認められるから、結局、右の供述及び記載部分は前認定の妨げとなるものではない。
さらに、被告は、後融資の点に関し、抵当権を設定した後に融資を実行するのは世上よくある例である旨主張するが、通常の金銭消費貸借に伴う抵当権設定契約の場合に後融資がなされることがあるか否かの点はさておき、抵当証券発行特約付き抵当権設定契約の場合には、抵当証券を原券としたモーゲージ証書が一般市場に流通するため、これを取得する一般公衆の取引の安全を保護する必要があり、通常の金銭消費貸借に伴う抵当権設定契約と同列に扱うことはできない。
また、水増し鑑定の点に関し、前記甲第五七、第五八号証、被告及び分離前被告楠原の各本人尋問の結果中には、本件土地は被告らによる買収開発が完成すれば三〇億円を越える価値があったとする供述・記載部分があるが、被告が鈴木に対し本件土地の評価を三〇億円程度にするよう申し入れたことは前記のとおりであり、抵当証券発行のために右のように予め意図的に土地の評価を設定すること自体、抵当証券の購入者である一般市民を欺く違法なものといわなければならないうえ、本件土地の買収開発の完成といった極めて不確実な要素を抵当証券発行のための鑑定資料とすることは許されないというべきであるから、右の供述・記載部分も採用することができない。
三 以上の認定事実によれば、被告は、鈴木、昌雨及び楠原らと共謀のうえ、昭和六〇年六月二四日被告が代表取締役を務めるレブコが本件土地を買収開発するのに必要な資金を調達すべくナショナル抵当証券を設立し、同社とレブコ間に金銭消費貸借契約及び抵当証券発行特約付き抵当権設定契約を成立させ、野納に作成させた本件土地の時価を大幅に上回る土地鑑定評価書に基づき岡山地方法務局に対し抵当証券発行を申請して抵当証券を取得し、これを原券とするモーゲージ証書を原告らを含む一般購入者に販売して総額三〇億円以上の資金を調達し、この資金をもってナショナル抵当証券からレブコに対する融資を実行したこと、ナショナル抵当証券は、モーゲージ証書販売代金を無計画に右融資や人件費等経費に充てる等、レブコによる本件土地の買収開発が成功しない限り早晩破綻する状態にあったところ、右買収計画は未買収の土地の存在等によって難航したうえ、さらに昭和六一年初めころ日本抵当証券協会等に加入していない抵当証券業者は危険である旨の報道がなされて新規購入者の減少及び中途解約者の増加が生じ、顧客の動揺を抑えるべく画策した同協会加入等にも失敗したため、同年一一月二六日、支払不能に陥って破産するに至ったこと、被告は右一連の過程において終始ナショナル抵当証券及び丸和モーゲージの運営の中心的存在として、右の事情を十分に認識しながら、モーゲージ証書の購入者である原告らに損害を与えたものであることが認められる。
したがって、被告は、民法七〇九条により原告らの蒙った後記の損害を賠償する責任を負うというべきである。
四 損害
前記甲第六八、第六九号証、成立に争いのない甲第二〇、第七五号証によれば、請求原因7(一)の事実を認めることができ、他に反証はない。
また、本件訴訟の経緯、内容、認容額等に照らせば、本件において相当因果関係がある弁護士費用は、別紙請求債権目録中の弁護士費用欄記載の金員をもって相当と認める。
五 結論
よって、原告らの本訴請求は、いずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官大和陽一郎 裁判官大竹昭彦 裁判官内野俊夫)